2018年10月30日火曜日

タテ2重組織(相補組織;仮称)から1本抜くと

「2本が対になり補い合っている柄布がある。1本が抜けると布は崩れてしまう。」ちょっと文学的な表現で、心惹かれるのですが、現実は。
でも、もしかすると、勘違い?と思い、サンプルを作って試しました。前回の続きです。


『もようを織る』には、相補組織は、
「2本中の1本を抜くと布として組織しない。」(p.258)
とあります。単様、複様の両方に通用するのでしょうか?

まずは、相補組織・複様です。


上から順番に 写真;① 
まずは、この本(p.259)にあるサンダー方式のサンプルをつくりました。著者が「相補組織・複様」と仮称をつけた組織です。
タテ糸は、こげ茶色と薄茶色。薄茶(ベージュ)が、ちょっと見えにくくて、すみません。ヨコ糸は、濃ピンク色です。

『The Primary Structures of  Fabrics/布の主要構造』のコンプリメンタリ―セットの分類(p.150)の最初にある写真の織サンプルと同じ組織です。

日本の手織り教室などでは、「昼夜織り」と呼ばれている組織です。「サマー&ウインター」などと素敵な名前で紹介している先生もいます。(注;米国では違う組織の名前です。)


写真;②
タテ糸の隣り合うこげ茶色と薄茶色、この2本が、対になり役割を分担していますから、タテのこげ茶色を抜いていきます。

写真;③
すると、ヨコ糸の濃ピンク色が1本おきに外れてしまいます。

写真;④
粗い平織が残りました。


薄茶のタテ糸を抜いても、平織、つまり、平組織が残りました。「組織している」ことになると思うのですが、「組織しない」は何か他の意味があるのでしょうか?

平織がこの織物の原組織で、残った平織と、抜いたタテ糸&外れたヨコ糸 で二重組織(二層構造)と思うのですが、いかがでしょうか。


『もようを織る」には、『布の主要構造』のコンプリメンタリ―セット(p.152)の「fig.252-255 は、タテ糸を抜いても組織が残るので、相補組織ではない」と説明があります。
この fig.252-255 の番号が付いた4枚の写真の織サンプルは、もちろん二層構造で、3/1と5飛びの2種類の綾組織(完全組織が 3×3以上)ですから、タテ糸の対になった2本中の1本を抜いても組織は残ることになります。


次は、相補組織・単様です。
p.258のサンデー方式のサンプルを組織図に書き直しました。南米アンデスに多い組織だそうです。(レピート 16本×8段;ついでに、綜絖通し、踏み木とタイアップ付)

1本を抜いた組織図を作成すると、綾組織を引き返した(山道通し)ダイヤ柄の組織が残ります。どちらを抜いても、ダイヤ柄の布として組織が残りました。原組織は綾組織でした。
右の組織は、タテ糸を混ませて織れば、はっきりとした2重のダイヤ柄になると思うのですが、織った布の写真はありません。普通の密度では、不安定そうな組織ですね。非対称/アンシンメトリーも気になります。


相補組織(仮称)の概念に、組織図で確認した個人的な解釈も加えて、 
本来は経糸は1本(1色)の一層の組織だが、色糸を使って柄を織りだすためには、この1本に 柄になる糸とならない糸 というような 役割 が生まれてくる。このため、この1本のタテ糸が便宜上、違う色が1本づつで計2本で対になって、本来1本で担う役割を分担する。
ということのようですから、一層の織物の例外組織かな?(ヨコ糸が対になる場合もある) でも、残った組織をみると二層の織物のような気もするのですが・・。

『The Primary Structures of  Fabrics/布の主要構造』のコンプリメンタリ―セットに分類した布は、タテかヨコどちらかだけが二層またはそれ以上で、組織の限定はありませんから、異なりますね。まあ、この組織が関係する部分だけ比較しても意味があるとは思えませんが。

相補組織の発想はおもしろいのです。が、コンプリメンタリ―セットのセットは組織論とするとウィーブと同じで、海外では、コンプリメンタリーウィーブと言葉は普通に使うのだそうで、コンプリメンタリ―ウィーブを相補組織と仮称して、説明の内容が違うとしても、代表する組織は同じで、分類した組織は違っても、50年も過ぎれば、概念も違ってくるということで、それでも評価に値する業績なので、いつもでもわからないと思っていないで先に進むことが・・・・・・。
これから海外をめざすテキスタイルデザイン関係の学生さんは、大変です。

2018年10月24日水曜日

組が本になって相補組織(仮称)に

聞いたことがない組織や織り方の名前は気になります。
「日本の織物用語として概念がない相補組織」という紹介文に興味を感じて購入した書籍『もようを織る』

「相補組織(仮称)」があるという『The Primary Structures of  Fabrics/布の主要構造』を前回まで見てきました。https://thistleweave.blogspot.com/2018/10/the-primary-structures-of-fabrics.html

相補組織は、上記のレポートでは「2組かそれ以上」という織物の分類でタテやヨコのどちらかだけが多層になるという「コンプリメンタリ―セット(分類項目名)」にありました。説明の横にあるサンプル写真は「昼夜織」。何やらむつかしく感じるのは、和訳時の単なる言葉のニュアンスの違いかと思ったのですが。

・・・・・相補組織・・・・・complementary sets・・・・・相補組織・・・・・complementary sets・・・・・相補組織・・・・・

『もようを織る』p.258には、相補組織(仮称)のきっかけになったと思われる「エモリ―の定義」が載っています。
以上の要素が同方向にあり、それらの糸は布の構造上同等である。」

著者によると、「経糸や緯糸の2以上を1単位として、補い合う組織があることを定義づけたはじめての組織論だが、抽象的な説明で、複式(色糸による紋織り組織)から説明されているため、単式(原組織;平・綾・繻子組織)との違いが理解しにくい。」のだそうです。

よく見ると、説明し直した文では、定義の「2組以上の要素」が「2本以上を1単位」に変わっています。組を本に訳し間違えたか?「2本以上の糸で1組⇒1単位」と思ったのか?でも、定義は「2組以上の」と1組ではなくと2組から説明が始まっていますが・・・。自分の考えに合うように意訳したのか?

相補組織の章の始め(P.254)にも、ほぼ同じ内容で「アイリーンエモリ―がその著書『布の主要構造』で、2以上の経糸が一筋や2以上の緯糸が一越を担う組織について、それらが互いに補い合うという意味でコンプリメンタルウィーブ:相補組織として…(後略)」とあります。

著者小林桂子氏は、「古代からの道具を使わない もじり技法 でも同じように2の色糸のうちのどちらかを表に出す模様作りを経験しているため、(経験した人なら誰もが)自然に考えつく(組織?定義?)」と記述しています。
エモリ―の定義の「2組以上の要素」が変わった理由は、「手を動かしてやってみればわかる」という持論(日本では一般的?)が影響しているようにも思えるのですが。


組織論という記述も気になりますので、原文を見ることにします。記してあるページ数から、原書を確認すると、コンプリメンタリ―セット; complementary sets の文頭に、「エモリ―の定義」と同じ原文がありました。下のWhenから始まるアンダーライン部です。

p.150-154.fig244-257 When two or more sets of elements have the same direction in the fabric and are co-equal in the fabric structurethey can be described as being complementary to each other. The structure itself is compound and can be either double-faced or two-faced.

訳してみたのですが、
  
構成する要素は同じ方向に2組かそれ以上あり、(それは布のタテまたはヨコ方向で、2層またはそれ以上の層になり)、布の裏表の組織は同じになるとき、裏と表が具合よくバランスが取れている状態(補い合う組織?)になっている布と評価できる。組織自体は組み合わさり、両面使いの布地やリバーシブル地になる。

前回まで見てきたように、「要素」とは、糸とか紐状のもの。「組」とは、織物でタテまたはヨコになる糸などの長さと順番を揃えて並べた状態のことでした。「同じ方向に2組以上」は「交差しないで2組…」ということですから、多層の織物の説明だとわかります。

さて、文頭のアンダーライン部の「エモリ―の定義」を組織論としてを読むと(文章の後半部はわかりにくくなるので、いらないのだそうです)・・・なるほど、著者が指摘しているように抽象的ですね。「補い合って」と訳してみても、著者の説明の重要な要点である「2本が1本のように組織する、とか、対になる、一筋や一越を担う」という記述はみつかりません。
やはり、布の分類を目的としたレポートのコンプリメンタリ―セットに分類した布の特徴についての説明文としか、個人的な意見ですが、思えないのですが。

コンプリメンタリ―で思いつくのは、色彩学の「補色」と数学の「補角」。「相互に補い合う云々」は、学術用語のような先入観があります。でも、英英辞典には、「異なるけれど一緒になにかすると役立つ、うまくいく」「異なる技の魅力的な組み合わせ」とか、軽い感じの説明もあります。このレポートではどのような感じなのか…関係したネイティブさんに訊いてみたいですね。


ミルトン サンデー氏(Milton Sonday)が著者小林氏のために 相補組織の概念 を説明した文章も載っています。

エモリ―の定義では「2組以上;sets」だった部分は変更されて「2本以上;threads」とはっきりと記されています。見つからなかった「一緒になり1本のように」も書き加えてあり、著者が自らの経験から自然に思いつくとして、訳文にした内容に合致しています。
そして、相補組織は、「一対である2本の糸が役割を分担している」ので、「2本中の1本を抜くと布として組織しない。」と書き加えてあります。

前回、作成した「昼夜織」の組織図は、この本のサンダー方式(細い紙を使って織った見本)の相補組織・経複様と同じでした。
この組織図では、隣り合うタテ糸の黒と青が一対になり役割を分担していることに、なります。綜絖の1番と2番で一対、3番と4番で一対です。

布として組織しないとありますが、黒を1本づつ抜いていくと・・・平織り、つまり、平組織が残ります。が。

※意見やコメントのある方は、冷静に、簡潔に、お願いします。

2018年10月16日火曜日

『The Primary Structures of Fabrics』を読み解く 2

前回からの続きで、今回は、多層の織です。この本を取り上げるきっかけになった「相補組織(仮称)」。書籍『もようを織る』小林桂子著によると「日本の織物用語として、概念がない組織」が登場します。

b.コンパウンドウィーブ;Compound weaves は、「要素の組合せ」の分岐まで戻ると、シンプルウィーブが「構成要素が2組」の分類です。したがって、コンパウンドウィーブは、「構成要素が3組以上」の分類であることがわかります。コンパウンドウィーブはシンプルウィーブに「組」を加えたと考えればよさそうです。分類の基本は「組」ですから、布になった状態とは限定してません。

この分類は大きく2つに分かれ、構成要素2組からなるシンプルウィーブに「タテ方向かヨコ方向のどちらかを1組を加える」と、「2組からできる布になった状態で加えて多層になる」です。つまり、「組で多層」と「布で多層」という2つの分類です。

★日本の織物の組織を勉強した人の話では、層になる織物は、同時に布を重ねて織る「重ね織」や「二重織」の「布で多層」しかないということ。すると1組だけを加えた場合のタテ糸またはヨコ糸だけが二層になるという構造は、未知の組織や新しい概念の発見(?)です。定義を探して、相補組織と仮称を付けたようです。
※二層より二重という表現が一般的ですが、「二重」には二重織のイメージがあるので「二層」にしました。


1). 「組で多層」;組を加えてコンパウンドにした;Compounded by adding sets of elements 
組数の加え方は、タテ方向が二層または多層でヨコ方向は一層。これを、90度回転して、タテ方向が一層でヨコ方向が二層または多層の構造になります。この分類は、さらにa).とb).に枝分かれします。

a).サプリメンタリ―セット;Supplementary setsでは、タテ方向かヨコ方向に「太さなどの違う組」を加えて多層になるという解釈になります。表裏の柄の出かたは違いますから、裏の組織は異なりますね。さらに(1)柄を入れる場合と(2)無地で保温や補強などの場合で分類してあります。

★日本では、この織り方は、一重の布を織りながら太いヨコ糸などを「柄になる別の糸を織り入れる」とか「はさみいれる」という感覚のようです。この技法名の「補緯」という用語を使い、分類項目名にすると「基本は一重の布(一層)」という印象です。すると、b.コンパウンドウィーブの分類には、一重の布(一層)と二重の布(二層・二重織)が混在すると思いたくなりますね。


b).コンプリメンタリ―セット;Complementary sets が、前分類 a).と異なるのは、加える組の糸の「太さなどが基本の布と同じ」という点です。 a).と同様に、タテ方向が二層や多層でヨコ方向が一層と、タテ方向が一層でヨコ方向が二層や多層があります。しかし、表裏の組織は同じでどちらも表として使える布(リバーシブル)になるという説明です。平織と綾織があります。

★『もようを織る』では、平織のみに相補組織の仮称を付け、日本の織物用語として概念がないとしています。でも、サンダー方式の組織見本をよく見ると手織り教室などで教わるという「昼夜織」。手織りの本やブログでよく見かける特徴的な組織図(右図)です。


2).「布で多層」;布の構造を追加して組み合わせてコンパウンドにした;Compounded by combing complete weave structures 
シンプルウィーブに構成要素を2組以上を布にして加えたとする分類。いわゆる重ね織や多重織はこの分類に含まれます。「a;重なった布が入れ替わり、各層の間が空いている;Interconnected」と「b;各層が綴じ合わせてある;Integrated」の2つに区分しています。


★『もようを織る』(P.255)では、相補組織を説明するために分類した織物組織の項目名の箇条書きがあります。「組織を分類するのが組織論」だからでしょうか。

あくまでの個人的な意見ですが、布の分類が、組織論とか組織を説明するためにあるというのは、「織ること」に執着しすぎているのような気がします。他に役立つことはないのでしょうか?

博物館や美術館の膨大な布の資料の保管、整理ため。自分の持っている布について詳しく知りたい。一般的な名称を知りたい。似たような布を探したい。産地や時代を調べる手がかりにしたい。論理的にわかりやすく分類することで役立つことはいろいろありそうです。

古くから緞子、金蘭、ダマスク・・・。色や柄が美しく織り出された布に憧れ続けた私たち日本人には、海外の布の知識といえば「組織」しか眼中にないのかもしれません。

日本に存在しなかった概念は、「相補組織(仮称);コンプリメンタリ―」ではなく、「布の分類学」のようです。50年以上も前に発表されたこのレポートの理論と概念が、理解されぬままに、日本の年月は過ぎたとは思いたくないのですが。

2018年10月10日水曜日

『The Primary Structures of Fabrics』を読み解く 1


相補組織/コンプリメンタリ―ウィーブについて云々する前に、書籍『The Primary Structures of Fabrics』の分類をもう少し紹介してみます。


前回、織物部分のみですが分類表を公開しました。参考にしてください。

分類項目の名称について、「こんな言葉はありません」と言う方もいるかと思いますが、研究グループも分類を進めながら決めていったということですから、既存の用語に当てはめる必要はないと思います。既成概念が邪魔をしてかえってわかりにくくなるようです。しかし、もう少し適した名称が見つかるかもしれません。


理解するための、基本的な用語は、どうやら2つ。(正確な内容を知りたい場合は、原書 p.27 を参照してください) 

1.Element;要素とは、糸、ロープ、テープ、コードなど、さまざまな形状や材料が想定されるので、限定を避けるための表現です。糸のような…紐のような…をイメージすれば読みやすくなるようです。

2.Set;組とは、要素を同じ方向に揃えるという布を作るためにグループ化した状態。同じ方向にタテ糸の長さと順番を揃えたら、1組(セット)。
構成要素が1組の分類になる組紐やマクラメなども、長さと順番を揃えてから作り始めます。この布を作る準備の過程にある「組/セット」は、日本の感覚では、手順の1つでしかありませんが、確かに存在します。
ヨコ糸も同様に1組(セット)と考えます。現実では、ヨコ糸は、織り入れないと順番も長さも揃わないのですが、タテをヨコにして織った布もあるので、分類上、タテ糸の組(セット)を90度回転させたと考えます。

原書は、布を形作るもととなる素材と撚糸、布の構造の分類、布の加工や縫い付け(キルト、アップリケ、貝やビーズ)の3部構成です。布の構造の分類がもちろんメインです。

布の構造の大分類は、「フエルト」、「要素の組合せ」の2つです。

「要素の組合せ」は、A.構成要素が1本、B.構成要素が2本、C.構成要素が1組、D.構成要素が2組、3組以上の4項目に分かれます。

★技法や組織の説明書では、「編み、織……」や「基本と応用」などに分類するケースがほとんどです。が、この分類のための発想は、理路整然です。

A.1本は網や編物、B.2本はA.に1本を加えた構造、C.1組は、組紐、マクラメ、スプラングなど。そして、D.構成要素が2組、3組以上。これは、3項目に枝分かれします。
「1.タテ糸とヨコ糸が交差する」は、織物
「2.要素が入替わる」は、もじり織やトワイニング
「3.タテ糸に緯糸を巻きつける」は、タペストリーなどの技法

さて、「1.タテ糸とヨコ糸が交差する」は、まず、a.とb.の2つに分かれます。
a.シンプルウィーブ;Simple weaves と b.コンパウンドウィーブ;Compound weaves です。

a.シンプルウィーブは、エモリ―の考え方では、タテ方向1組とヨコ方向1組が交差した「織物」です。分類を戻ってみると、「構成要素が2組か3組以上」の「2組」に該当することが確認できます。つまり、タテ1組とヨコ1組で「一層の織」。
一層より一重という表現が一般的ですが、後述の「二重」には二重織のイメージがあるので「一層」「二層」にしました。

そして、a.シンプルウィーブは、平織の「1.プレーンウィーブ;Plain weaveと、浮きのある織の「2.フロートウィーブ;Float weaves」の2つに分かれます。フロートウィーブは、綾織、朱子織、平織から派生した織の3種類になります。

★シンプル⇒単純という言葉の意味から、単式や日本従来の考え方の原組織・三原組織とすると、コンパウンド⇒複合⇒複式 と、少しずつ意味が動いて、複雑な としたくなります。エモリ―の 織物の分類 の基本となる「組」という理論から、単純な組織vs複雑な組織 という形式に変容してしまいします。

自分が得意だと思っている部分だけを読むと、今まで学んだ日本従来の知識に当てはめて解釈したくなるのかもしれません。でも、歴史も文化も、受けた教育も違うのですから、考え方や発想も、もちろん、違うはずです。このことに気づかないと、エモリ―のレポートを理解するのは難しいだろうと推察できます。

書籍に限らず、考え方が違う相手を理解する手がかりは、思い込みを捨てて真摯に向き合ってみることしかないと思うのですが。

長くなりましたので、b.コンパウンドウィーブは、次回に。

2018年10月2日火曜日

『The Primary Structures of Fabrics』は 何が書いてある本?


『The Primary Structures of Fabrics』は、何が書いてある本なのでしょう
1980年代に活躍した日本の手織作家の先生方の参考書籍一覧で時々見かけますから、日本でも有名な本なのだろうと思います。

書籍『もようを織る』小林桂子著 では、書籍名を布の主要組織と訳して「欧米における布の組織学について基礎を築いた」と紹介しています。
著者は、Irene Emery。米国のワシントンD.C.にあるThe Textile Museum;布の博物館 が関係し、詳細を確認していませんが、この博物館は歴史あるジョージタウン大学と連携しているようです。この大学レベルと思われる本に「抽象的な説明」は本当にあるのでしょうか?

まず、原書の前文を見てみましょう。
THE DESCRIPTIVE CLASSIFICATION of fabric structures presented here is based
on a long and wide-ranging study of representative fabrics from ancient and primitive cultures, and of the methods and terminology employed in analyzing, describing, and classifying them.

「ここに提示する布の structures 記述的分類は、長期で広範囲にわたる・・(中略)・・布の研究を基礎におこなわれた。そして、記述的分類の手法と用語は、分析、記述、比較をすることから見出した。」
……もう少しわかりやすい訳ができそうですが、あまりに簡潔すぎて訳しにくい…。

つまり、「布のStructuresを分類した」とのことです。ワシントンにある「布の博物館の膨大な布の資料をもとに「布の分類学」を確立したレポート(論文)のように、私には思えるのですが。

日本では、「組織を分類するのが、組織論」という解釈があるらしいのです。わざわざ難しくしているように思えるのですが…。すると、「文学を分類するのが、文学論…?」「昆虫を分類すると昆虫論…?」になりかねませんから、完全に混線です。独自解釈が多すぎる。私が若い頃に織物が嫌になった理由の一つですね。

欧米人は、このレポートの記述スタイルで分類だとわかるのですが、日本語は象形文字文化なので、ツリー形式の図表がないとわかり難いのかもしれません。原書には、フェルト、網や編物、トワイニングなど布となるたぶんすべての技法があります。織りの部分だけですが、作成してみたのがこれです。
論理的で無駄ない分類だと見ただけで納得です。次回、もう少し説明してみます。

※図はクリックすると拡大します
                        
さて、このレポートは、構造論でも組織論でもない訳ですが、この場合の structures は、「構造」でしょうか「組織」でしょうか。
「組織」とは、織物のタテ糸とヨコ糸の交差した状態をあらわすと承知していましたので、『構造』だと思っていました。しかし、「組織」は、織物以外にも使うという説があり、編物組織、ループ組織、刺繍のサテンステッチ組織、フエルト組織と言うから、織物以外にも「組織」という言葉は使う(?)使える(?)のだそうです。読んでいるあなたは使いますか?「組織」って何だと思いますか?

「組織を分類するのが組織論」という日本のオリジナル定義(?)が存在すると、分類学と組織論の区別ができにくくなります。今回のように、分類項目についての説明から、組織の説明の部分のみを取り出して、組織論として評価判断することも不自然ではなくなります。しかし、原書は組織論として記述をしていませんから「抽象的でわかりにくい」になりますね。

一説によると、技法や組織を翻訳するのは、誰も可能とは思えないという持論をお持ちのようで、大切部分と感じた「コンプリメンタリ―セットの説明の組織の部分」を相補組織(仮称)の定義として紹介したように思えます。

そして、『The Primary Structures of Fabrics』の著者エモリ―の説明には当初から不充分な点がありるので、この論文にこだわる必要はないということです。
初版から50余年が過ぎ、組織論といえども同じ点にとどまっているはずがない。迷わずに前進するべきということです。

どのような論文でも、例外的な項目が残ることは時々あるようで、『The Primary Structures of Fabrics/布の主要構造』に時代遅れや過去の遺産となるほどの不充分や欠点があるとは、思えないのですが。

意見のある方は、簡潔に、冷静に、お願いします。

2018年9月25日火曜日

書籍「もようを織る」 小林桂子著

北米の織り物の記述が気になって購入した本です。

古くてきしむ木製のドアを開け、埃の積もった部屋に入ったような気になります。カゴ、タイル、布裂れ、紐、書籍、メモ書き、織りかけのサンプル、雑誌、旅行の昔話、写真、博物館のカタログ、洋書、織機の部品、膨大な資料・・・・・創作活動をする人にとって興味は尽きることがないらしい。「世界中の機や文様を見ることはできないが…」とご承知のようですが、世界中の地域と原始からの歴史を手元の資料で網羅しようとしたようにも思えます。組織ともようと織機の3つを関連付け、×世界各地の布 ×原始からの歴史 をつまり取り扱うのは掛け算。つまり3次元。どう考えても、たった一人で、そう簡単に論理的に整理できるとは思えません。

1ページごとにテーマがかわっていく編集方式、イラストや写真、図版が多く、文書や説明が少ないので、何もかも詰め込んだという印象の本です。

著者は、自宅に西陣のジャカード装置を付けた織機を設置して、織物作品を制作するとあります。

ですから、興味の中心も得意分野もこの「地」と「柄」が別々のタイプの織機と組織で、この本の主な内容になっています。

著者にとっての「もようを織る織機」とは、布の本体の「地」を織る地綜絖と「柄」を織る柄綜絖の2種類がある織機のこと。
そして、「織機とは、綜絖をそなえた道具」だとして、棒と棒の間にタテ糸を回し張り、糸綜絖さえ付いていれば、原始的な道具でも、織機なのです。そして、綜絖と柄経の上下の説明できれば、織機の説明になると思っているのかもしれません。
これは一般的な4枚綜絖の織機を使う手織りとは、全く別ジャンルですから、ろくろ式や天秤式の織機を使っている人の手織りの参考になるところはほとんどありません。

項目は紋様の発生、もじり織など組織別、色糸の紋様、相補組織、トジの技法、ベルベット、ジャカード機。そして、アンデスの紐織り、著者の推測技法、国内外書籍の引用も加わり、多様で、ごちゃ混ぜ感すらあります。著者の真意はどこにあるのかと疑問を感じます。地域ごとに代から原代までの紋織物を実写真と組織だけでいいので、解説して欲しかったと思います。

しかし、著者は、従来のように組織別を基軸にし、もようという観点から追加や若干の変更を加え、いろいろな手法で組織を説明することで新味を試みています。
タテ糸と綜絖を通した織機の部分の絵を描いたり(これが、織機の説明?かもしれません)、サンデー方式という細い紙を組み合わせる方法を使ったり、点と矢印で示したり、米国書の図がそのままだったりと、様々です。それぞれの組織を単純に比較できず、結果、わかりにくい。
一般的な白黒の組織図で組織と綜絖通しなどの関係を見なれていると、この本のさまざまな組織の図や綜絖通しのイラストは、まるで古文書や絵図を読み解く感じです。

海外のセミナーに参加するなど英語も堪能な方のようで、海外書籍の部分を引用して、そのコメントから話が始まるケースがいくつかあるのですが、著者の意にあった原書部分をつまみ食いしている感じがあります。相補組織の説明では、「原書;The Structure of Weavingの組織論は抽象的な説明でわかりにくい」と書いています。論理的、合理的でなければ認められない米国のリポート(論文)が「抽象的」という記述には、戸惑いを感じます。後日、簡単に紹介してみたいです。

当然のことながら、個人的な感想ですが、この本に感じる読み難さは、短すぎる説明と資料の紹介が交錯していて、著者は何を言いたいのか、どのように読み取ればよいのか、はっきりしないところです。著者の推察や推測、専門家の仮説、裏付けのある歴史の技法など様々なタイプが混在しているようなのです。また、使われている織物用語は呼び名や名称が様々で、著者オリジナルの解釈や新語もあり、用語説明一覧がほしいと思いました。国内外の織や組織に詳しく、専門的知識も豊富な人でもかなり難解だろうと思います。

また、実際にやってみれば、自然なことだとして、『タテ糸のつなぎ間違いからもじり織の綜絖』、『綾織から繻子織に進んだ』『綜絖通し間違いの繰り返しと、踏み間違えからブロックデザインとオーバーショットやサマー&ウインターなどの織り方が生まれた』など、自分経験から得た数個のパズル片を組み合わせて、安易に説明してしまうような記述は先人たちは苦心もせず偶然に見つけたように聞こえて気になります。

40年ほど前、手織りを学んだときに「言葉や文章では通じない世界だから、文句や理屈を言ってないで、やってごらん。そうすればわかるから」という教えがありました。著者も、いまだにこの教えを信じて手を動かし、たくさんの推測を生み出したようです。生活環境、思考や発想もことなる古代の組織や技術を著者の思い付きと現代のやり方で再現して、歴史を説明する危うさを感じます。
織作家として、織布の復元の楽しみや、やり方を発表するだけでは満足できなかったのでしょうか。

最後に、著者は「布の組織と’もよう’の発達とが深く関わりあっている」としています。
では、もようや色数を増やしたことで組織が不安定になっている古い布が存在することをどのように説明するつもりでしょうか。

本の分厚さと引用の多さばかりが気になりました。

2018年9月19日水曜日

書籍;もようを織るのブロックデザインと A Handweaver's Pattern Book と 

早速『もようを織る」小林桂子著 を購入しました。

この本のp.394に『A Hand Weaver's Pattern Book』の紹介がありました。

『9.リピート模様を作る織機』の章にありました。しかし、欧州から米国に移住と共に伝わった手織機についての説明はありません。

「米国に受け継がれ、描き写された組織をまとめた名著である」と紹介されている『手織のパターンブック; Hand Weaver's Pattern Book』。(正しくは、A Handweaver's Pattern Book)

「代表的な組織デザインを紹介する」として、6柄が載っています。

この本のp.394~396に転載された6柄は、柄、字体、織り方図、写真も、原書そのまま。ブロック数とコメントが付け加えてあります。菱型の変化柄で4枚綜絖で織るクラックル織のMirrored Minaretsも綜絖通しの特徴から4ブロックデザインと書いてあります。

原書は最近になり再販されるほど人気があるのですが、ブロックデザインの実例として使ったようにも見えます。著者に聞いてみたいものです。

この章を読み進むと、「ドイツや北欧から受け継いだブロックデザインがメインの組織の本だったっけ?」と確かめたくなります。しかし、原書の前文には、「掲載されている多くのパターンはオリジナルであり、起源が様々なパターンもある」とあります。

「もようを織る」では、ほとんどのテーマは1ページごとにまとめてあります。そして、順番に続いていくという編集形式ですので、何を意図しているのか測りかねるところがあります。さて、関係する内容を簡単に紹介してみます。

この本の紹介の2ページ前には、「18世紀のドイツの織物業のノートにブロックデザインの下絵が残されている。オーバーショットやダマスクためのだデザインを展開した。右写真の「Wandering Vine」が、このデザイン帳にあり、同じデザインが『手織のパターンブック;Hand Weaver's Pattern Book』にある。」という内容です。

直前ページでは、ブロックデザインに当てはめる多綜絖は、変化綾(オーバーショット)、クラックル、サマー&ウインターなどの織り方で、綜絖の順通しや踏み木を間違えたことで生まれたとして、綜絖通し図があります。そして、これらの組織や織り方が、ドイツや北欧から米の手織りに受け継がれたというのが説明の概要です。

Mary M.Atwater の著書には、「オーバーショットは古いパターンの名前から、ニューイングランドのピューリタンと共にアメリカに来たと思われる」とあり、「スカンジナビアの本には 同じ織り方が載っているが、パターンは少ししかない。多くの柄はアメリカで生まれたに違いない」と記述があります。A Handweaver's Pattern Bookの前文の「多くの柄はオリジナルである」を裏付けています。

また、「ブロックのデザインは、主に二重織ために描かれ、その後、オーバーショットやクラックルなど他の織り方で使われた。」という記述もあります。「もようを織る」の挿図のパターンも、柄の濃淡の配置や陰影がないことからダマスクやオーバーショットのデザインだとするよりも、二重織用だとすると無理がありません。

これらのことから、ブロックデザインと変化綾(オーバーショット)、クラックル、サマー&ウインターは別々にアメリカに渡ったと考えるのが順当です。これらの織り方は、アメリカで発展し、のちに、欧州や国内で描かれた大きなブロックのデザインも織ったというのが、一般的な見方だと思います。

もし、現代に生きる著者が個人的に「美しい」と感じたから、ドイツに下図があるから、「代表的な」として選んだならば、不快に感じる人がいるかもしれません。

米国の歴史の一部となった手織りのパターンを集めた本なのですから、
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私の織った柄が「代表だ」と紹介されていた「ご縁?」で、以前読んだ本の内容と違うところを書いてみました。
意見のある方は、根拠を明確にして(冷静に)コメントしてください。

※この本では、「ブロックデザイン」という言葉を使っていますが、英訳付記では海外では一般的なblock patternになっています。
※欧米では4枚綜絖の織機は標準仕様です。『もようを織る』の多綜絖は、4枚、8枚です。
※明かに訂正が必要な記述がありますので、記しておきます。
    p.395 6行目 誤;織サンプルの裏と表の写真
             正;下の写真は、同じ綜絖通しで織ったハニコム(はちす織)

2018年9月11日火曜日

時が過ぎて

髪が白くなるように、眼も老化する。「老化は、老眼だけではないですよ」と眼科医は言う。
織物などという細かいことは、そろそろ引退か・・・と思っていると、2冊の本を見つけました。


1冊は、「もようを織る」小林桂子著

何の気なく開いてみると、P.394に、M.B.Davison著『A Handweaver's Pattern Book』からの転載がありました。

「米国に受け継がれ、描き写された組織をまとめた名著」と紹介されています。

「代表的な組織デザインを紹介」と前置きがあり、全部で6柄。版権が切れているのでしょうが、字体も、織り方図も、写真も、そっくりそのまま転載されていますので、出版した時代の米国のリアルな感じがします。

そして、代表的な柄や説明にある7柄のうち3柄は私がブログで公開した柄やよく似た柄。このセレクションは偶然でしょうか?

この3柄を織ったのは、2013年。

写真右は、綾織で柄を作ることは綜絖通しで計画できることを試してみました。
http://thistleweave.blogspot.com/2013/03/blog-post.html
(追記;購入してよく見たら、掲載されているのは、よく似たGoose Eye Blocks. 綾のコンビネーション柄が代表柄ということですか・・・。)

写真下は、
オーバーショットらしくない少し変わった柄を・・・と思って選びました。
http://thistleweave.blogspot.com/2013/11/wandering-vine.html

斜め構成の柄は、安定感がないので、嫌う人がいますから、「一般的」とか、「代表的」には、ならないというのが、テキスタイルデザイン界では「常識」なんですが。

代表的な柄だったとは・・・。

「絡まる蔦」と紹介されています。
伝統的なブロックデザインであることを理解するとあります。

下絵が欧州のレップ氏のデザイン帳にあるのと(オーバーショットの特徴であるシャドウが描いてないようですが。)同じ柄がA Handweaver's Pattern Bookにあり、織職人ローズ氏の番号のメモ書きがあること。


つまり、著者の言う伝統的とは、「出何所が由緒正しい」こと・・・らしい。



写真左に似た下絵もレップ家のデザイン帳から紹介されています。
http://thistleweave.blogspot.com/2013/12/johann-specks-design-no33.html

円形がどこまできれいに織れるか・・・試してみただけなのですが。

ブロックデザインなら、ドレルや二重織だと思うのですが。


厚さが25mmもある本です。題名からすると織柄についての著作のようですが、欧米についての記述もあるようです。不思議に思うことも何か所かあり、じっくり拝読することにします。


もう1冊は、1年4か月前に取り上げた本『ちいさな織機でちいさなおしゃれこもの』
近くの大型書店で平置きに積まれていました。

前述の 小林桂子氏 は、「綜絖のないのは織機ではない」と記述していますから、この本の題名には「異議あり」だと思います。

でも、糸と糸が交差して、何かが出来上がる・・・・楽しんでほしいですね。


プロもいれば、芸術家もいる。家庭でも作る。工場で生産する。
世界各地にあり、歴史をたどれば、きりがない。
手織りは、手料理みたいなもの・・・と思うのです。