2018年10月24日水曜日

組が本になって相補組織(仮称)に

聞いたことがない組織や織り方の名前は気になります。
「日本の織物用語として概念がない相補組織」という紹介文に興味を感じて購入した書籍『もようを織る』

「相補組織(仮称)」があるという『The Primary Structures of  Fabrics/布の主要構造』を前回まで見てきました。https://thistleweave.blogspot.com/2018/10/the-primary-structures-of-fabrics.html

相補組織は、上記のレポートでは「2組かそれ以上」という織物の分類でタテやヨコのどちらかだけが多層になるという「コンプリメンタリ―セット(分類項目名)」にありました。説明の横にあるサンプル写真は「昼夜織」。何やらむつかしく感じるのは、和訳時の単なる言葉のニュアンスの違いかと思ったのですが。

・・・・・相補組織・・・・・complementary sets・・・・・相補組織・・・・・complementary sets・・・・・相補組織・・・・・

『もようを織る』p.258には、相補組織(仮称)のきっかけになったと思われる「エモリ―の定義」が載っています。
以上の要素が同方向にあり、それらの糸は布の構造上同等である。」

著者によると、「経糸や緯糸の2以上を1単位として、補い合う組織があることを定義づけたはじめての組織論だが、抽象的な説明で、複式(色糸による紋織り組織)から説明されているため、単式(原組織;平・綾・繻子組織)との違いが理解しにくい。」のだそうです。

よく見ると、説明し直した文では、定義の「2組以上の要素」が「2本以上を1単位」に変わっています。組を本に訳し間違えたか?「2本以上の糸で1組⇒1単位」と思ったのか?でも、定義は「2組以上の」と1組ではなくと2組から説明が始まっていますが・・・。自分の考えに合うように意訳したのか?

相補組織の章の始め(P.254)にも、ほぼ同じ内容で「アイリーンエモリ―がその著書『布の主要構造』で、2以上の経糸が一筋や2以上の緯糸が一越を担う組織について、それらが互いに補い合うという意味でコンプリメンタルウィーブ:相補組織として…(後略)」とあります。

著者小林桂子氏は、「古代からの道具を使わない もじり技法 でも同じように2の色糸のうちのどちらかを表に出す模様作りを経験しているため、(経験した人なら誰もが)自然に考えつく(組織?定義?)」と記述しています。
エモリ―の定義の「2組以上の要素」が変わった理由は、「手を動かしてやってみればわかる」という持論(日本では一般的?)が影響しているようにも思えるのですが。


組織論という記述も気になりますので、原文を見ることにします。記してあるページ数から、原書を確認すると、コンプリメンタリ―セット; complementary sets の文頭に、「エモリ―の定義」と同じ原文がありました。下のWhenから始まるアンダーライン部です。

p.150-154.fig244-257 When two or more sets of elements have the same direction in the fabric and are co-equal in the fabric structurethey can be described as being complementary to each other. The structure itself is compound and can be either double-faced or two-faced.

訳してみたのですが、
  
構成する要素は同じ方向に2組かそれ以上あり、(それは布のタテまたはヨコ方向で、2層またはそれ以上の層になり)、布の裏表の組織は同じになるとき、裏と表が具合よくバランスが取れている状態(補い合う組織?)になっている布と評価できる。組織自体は組み合わさり、両面使いの布地やリバーシブル地になる。

前回まで見てきたように、「要素」とは、糸とか紐状のもの。「組」とは、織物でタテまたはヨコになる糸などの長さと順番を揃えて並べた状態のことでした。「同じ方向に2組以上」は「交差しないで2組…」ということですから、多層の織物の説明だとわかります。

さて、文頭のアンダーライン部の「エモリ―の定義」を組織論としてを読むと(文章の後半部はわかりにくくなるので、いらないのだそうです)・・・なるほど、著者が指摘しているように抽象的ですね。「補い合って」と訳してみても、著者の説明の重要な要点である「2本が1本のように組織する、とか、対になる、一筋や一越を担う」という記述はみつかりません。
やはり、布の分類を目的としたレポートのコンプリメンタリ―セットに分類した布の特徴についての説明文としか、個人的な意見ですが、思えないのですが。

コンプリメンタリ―で思いつくのは、色彩学の「補色」と数学の「補角」。「相互に補い合う云々」は、学術用語のような先入観があります。でも、英英辞典には、「異なるけれど一緒になにかすると役立つ、うまくいく」「異なる技の魅力的な組み合わせ」とか、軽い感じの説明もあります。このレポートではどのような感じなのか…関係したネイティブさんに訊いてみたいですね。


ミルトン サンデー氏(Milton Sonday)が著者小林氏のために 相補組織の概念 を説明した文章も載っています。

エモリ―の定義では「2組以上;sets」だった部分は変更されて「2本以上;threads」とはっきりと記されています。見つからなかった「一緒になり1本のように」も書き加えてあり、著者が自らの経験から自然に思いつくとして、訳文にした内容に合致しています。
そして、相補組織は、「一対である2本の糸が役割を分担している」ので、「2本中の1本を抜くと布として組織しない。」と書き加えてあります。

前回、作成した「昼夜織」の組織図は、この本のサンダー方式(細い紙を使って織った見本)の相補組織・経複様と同じでした。
この組織図では、隣り合うタテ糸の黒と青が一対になり役割を分担していることに、なります。綜絖の1番と2番で一対、3番と4番で一対です。

布として組織しないとありますが、黒を1本づつ抜いていくと・・・平織り、つまり、平組織が残ります。が。

※意見やコメントのある方は、冷静に、簡潔に、お願いします。

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