『The Primary Structures of Fabrics』は、何が書いてある本なのでしょう?
1980年代に活躍した日本の手織作家の先生方の参考書籍一覧で時々見かけますから、日本でも有名な本なのだろうと思います。
書籍『もようを織る』小林桂子著 では、書籍名を『布の主要組織』と訳して「欧米における布の組織学について基礎を築いた」と紹介しています。
著者は、Irene Emery。米国のワシントンD.C.にあるThe Textile Museum;布の博物館 が関係し、詳細を確認していませんが、この博物館は歴史あるジョージタウン大学と連携しているようです。この大学レベルと思われる本に「抽象的な説明」は本当にあるのでしょうか?
まず、原書の前文を見てみましょう。
THE DESCRIPTIVE CLASSIFICATION of fabric structures presented here is based
on a long and wide-ranging study of representative fabrics from ancient and primitive cultures, and of the methods and terminology employed in analyzing, describing, and classifying them.「ここに提示する布の structures の記述的分類は、長期で広範囲にわたる・・(中略)・・布の研究を基礎におこなわれた。そして、記述的分類の手法と用語は、分析、記述、比較をすることから見出した。」
……もう少しわかりやすい訳ができそうですが、あまりに簡潔すぎて訳しにくい…。
つまり、「布のStructuresを分類した」とのことです。ワシントンにある「布の博物館の膨大な布の資料をもとに「布の分類学」を確立したレポート(論文)のように、私には思えるのですが。
日本では、「組織を分類するのが、組織論」という解釈があるらしいのです。わざわざ難しくしているように思えるのですが…。すると、「文学を分類するのが、文学論…?」「昆虫を分類すると昆虫論…?」になりかねませんから、完全に混線です。独自解釈が多すぎる。私が若い頃に織物が嫌になった理由の一つですね。
欧米人は、このレポートの記述スタイルで分類だとわかるのですが、日本語は象形文字文化なので、ツリー形式の図表がないとわかり難いのかもしれません。原書には、フェルト、網や編物、トワイニングなど布となるたぶんすべての技法があります。織りの部分だけですが、作成してみたのがこれです。
論理的で無駄ない分類だと見ただけで納得です。次回、もう少し説明してみます。
※図はクリックすると拡大します
さて、このレポートは、構造論でも組織論でもない訳ですが、この場合の structures は、「構造」でしょうか「組織」でしょうか。
「組織」とは、織物のタテ糸とヨコ糸の交差した状態をあらわすと承知していましたので、『構造』だと思っていました。しかし、「組織」は、織物以外にも使うという説があり、編物組織、ループ組織、刺繍のサテンステッチ組織、フエルト組織と言うから、織物以外にも「組織」という言葉は使う(?)使える(?)のだそうです。読んでいるあなたは使いますか?「組織」って何だと思いますか?
「組織を分類するのが組織論」という日本のオリジナル定義(?)が存在すると、分類学と組織論の区別ができにくくなります。今回のように、分類項目についての説明から、組織の説明の部分のみを取り出して、組織論として評価判断することも不自然ではなくなります。しかし、原書は組織論として記述をしていませんから「抽象的でわかりにくい」になりますね。
一説によると、技法や組織を翻訳するのは、誰も可能とは思えないという持論をお持ちのようで、大切部分と感じた「コンプリメンタリ―セットの説明の組織の部分」を相補組織(仮称)の定義として紹介したように思えます。
そして、『The Primary Structures of Fabrics』の著者エモリ―の説明には当初から不充分な点がありるので、この論文にこだわる必要はないということです。
初版から50余年が過ぎ、組織論といえども同じ点にとどまっているはずがない。迷わずに前進するべきということです。
意見のある方は、簡潔に、冷静に、お願いします。
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