2014年3月19日水曜日

「ろくろ機は下口開口」への返信

手織の用語の和訳についてです。コメントをくださった方ではなく、読まれた全ての方への返信です。

北米ではジャッキ式/ジャックルームが主流となり、タイアップ図も織もアメリカ独自のスタイルが普及した・・・少し詳しい方ならご存知のことだと思います。ですから、織機はタイアップとの関係や経糸の掛け方などをみれば、アメリカの手織に対応しやすいかどうかを知る手掛かりとなり、さらに発展するアメリカの多綜絖の手織に適した本格的な織機が考えられるはずと書いたことがあります。

ところが、ふだんお使いになっている表現や学ばれた内容と違ったために勘違いされたようで、手織機の種類について、ジャックルームをはじめ、さまざまな織機の構造と分類などの説明をいただきました。また、「綜絖は下がる」ではなく、ろくろ式は「下口開口」と書くべきとのコメントをいただきました。

どうやら洋式手織機を説明するコトバは従来とは違う意味で使われ、道具(織機)の理解の仕方も解釈も違うらしい・・・と途惑っているうちに、本題は薄れ、認識の違いに終始しました。


さて、この時に疑問に感じた『ろくろ式は下口開口』は、やはり誤訳と考えます。なぜ気づいたのか・・・・書きとめておくことにします。長くなりますが、省略せずに。

先日の米国の組織図の解説書を読んでいたときのこと。ジャックルーム、ろくろ機、天秤式織機のイラストとタイアップを組合わせた説明がありました。コメントをくださった方は、この3タイプを比較する説明のしかたで織機の構造とタイアップを同時に学んだのではないかと気づきました。

まず、イラストと従来の英語の表現を組合わせると、次のようになります。
ジャックルームは、”rising shed” loom/ライジング シェッド ルーム⇒上がる・開口・織機⇔〇印のタイアップ図
ろくろ機は”sinking shed” loom”/シンキング シェッド ルーム⇒下がる・開口・織機⇔×印のタイアップ図
カウンターマーチ機は、”~ing shed loom" という呼び名で書かれているのを見たことはありません。(現時点では)
shed は開口 loomは織機です。

この本(1993年初版)で、著者は、ろくろ機について「”sinking shed” loom/シンキング シェッド ルーム”という言葉は誤解をまねきやすい表現だ。綜絖は上部のろくろや滑車でもう一枚の綜絖とコードでつながっているため、綜絖は下がるだけでなく、つながっているもう一方の綜絖は上がる。」と書いています。ジャックルームが一般的なアメリカだから起こりがちな誤解です。この著者は、従来とは異なる”shaft rise or sink to form shed"⇒「開口するために綜絖が上がる。 または 下がる。」という綜絖の動きを取り入れた新しい表現を使っています。

ともあれ、私は、ライジング シェッドは「綜絖が 昇る/上がることでの開口」 シンキング シェッドは「綜絖が 沈む/下がることでの開口」と、そのままイメージしていました。これを「上口開口」、「下口開口」と和訳したと思われます。
 

さて、私が初めて手織りを習ったころ--1970年代は、タイアップ(結び)は印の所を結びなさいと教えられました。結んだ綜絖は踏み木を踏むから「下がる」・・・これが当たり前でした。伝統的な踏み木のある手織機の世界では共通する基本でした。アメリカでは全く新しいタイプの上口開口のジャッキ式織機と組織図が一般的に浸透した頃かと思います。

当時の日本では、開口という言葉は織り方の説明で使われていましたが、上口開口、下口開口という言葉は手織では、使われていなかったと思います。しかし、名称とイラストは・・・どこかで見た記憶がありました。

増補 「織物組織意匠法」 田島弥一著 京都書院刊 昭和56年3月発行 

本棚に残っていました。工場で生産される布の組織についての本で、力織機(りきしょっき/生産現場の動力機)の基本的な説明もあります。P10の「開口運動(Shedding Motion)」の章です。写真見えにくくてすみません。

これを見ると、左上;上口開口(Over shed)・・・ジャックルームの開口と確かに同じです。
中央;下口開口(Under shed)・・・イラストを見ると、ろくろ機の開口とは明らかに違います。上口開口をひっくり返した形で、素直に「下にのみ動いて開く口の形」と納得できます。

イラストからすると、経糸が上下に同じ距離を動いて開口するろくろ機は、右上;中口開口(Center shed)にあてはまります。カウンターマーチ機だけが中口開口ではありませんでした。


力織機の場合、「その織機の綜絖が開口するために 上がる/下がる/動かない」よりも「どの開口をする織機を選ぶことでいかに早く安定して織れるか」という生産性との関係です。つまり、上口開口や下口開口などの言葉は織機の構造の部分の「性能」をしめす言葉といえます。調べると、最近は手織機の構造の説明にも使用されており、ろくろ機は「中口開口」となっています。

上口開口、下口開口、両口開口(中口開口の間違い?新語?)・・・・・・「○印、×印、両方結ぶ。覚えやすいからいいよね。」と思うかたもいると思います。しかし、構造で使われてきた言葉をタイアップに使うと、
1.構造の話?タイアップの話?相手に通じなかったり、誤解される場合もあります。
2.組合わせて覚えれば、構造とタイアップの両方を一度に理解できるようなに気になりますが・・・構造は中口開口で、タイアップでは下口開口という矛盾した織機が存在することになります
偶然に生産現場で使われていた言葉と一致してしまったのかもしれませんが、sinking shedを下口開口と訳すのは、誤解をまねきやすい表現と言うより、誤訳になると言わざるを得ません。

カウンターマーチ機は、構造は中口開口で、タイアップでは両口開口となるようです。どちらも口開口とつくのでわかりにくいと思うのは私だけでしょうか。

英文では、手織りの場合、力織機につかわれるOver/Under shed や Top/Bottom shedという「開いた状態と性能」を表す言葉 ではなく、Rise/Sink という「動きを表す単語」を使っています。
瞬時に開閉する力織機の開口と異なり、実際に踏み木を踏んで、綜絖の上がり/rise下がり/ sinkを楽しみしながら織りをする・・・手織りらしくて、わかりやすい表現だと思います。この英語の意を酌むという点からも、日本語訳として「上口開口/下口開口」という言葉が本当に適切かどうか・・・そのままの「上がり/下がり」でわかりやすいのか・・・・一考がいると思います。

そして、アメリカの"sinking shed” loom/シンキング シェッド ルーム という表現は、ジャックルームが登場し生まれた。カウンターマーチの説明もジャックルームに呼応している。・・・・と気づけば、もっとわかりやすくなるはずです。

※読み比べができず双方の主旨がわからなくなるので、掲載文を訂正するのはやめてください。コメントではなく、具体的な意見のある方は、手織りを学んだ方法や場所、米国式、北欧式、日本式のいづれなのかと経歴などのプロフィールを書き添えてください。投稿は簡潔にお願いします

2 件のコメント:

  1. 「ろくろは中口開口」との御見解、賛同します。
    asaokaさんのとは別の本だったと思いますが、私が「上口、下口、中口(両口?)」という開口の種類を読んだ本にも、ほぼ同様の図解が出ていて、それぞれが上口…ジャッキ式、下口…ろくろ式、中口…天秤式という織機の分類に結びつけて解説されていましたので、そのまま覚えていました。
    しかしながら、asaokaさんの本の写真には、ちゃんと「開口運動」と書いてあるように、「ろくろは下」というのは踏み木を踏んだときにに綜絖がどの方向へ動くか、の話であって、実際に真横から見たときの「開口状態」の話とイコールではありませんね。
    おっしゃるとおり、ろくろ機では、踏み木に結んだ綜絖は下がりますが、滑車の働きで他の綜絖は上がり、結果的に「開口状態」は「中口」になりますね。実際にろくろ機に向かった時にも、このことは体感します。
    「本に書いてあるからこうだ」ではなく、自分の目で見て、手足で感じて納得しなくてはと感じました。

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  2. 北欧や欧州から移民とともに、いろいろな仕様の織機が入ってきたアメリカでは、

    織いつもコメントありがとうございます。
    この組み合わせの方式でタイアップを学んだ日本中の手織り愛好家を敵にまわした(笑)…と覚悟していました。今回のコメントは一段上のうれしさです。
    ろくろ機がメインの日本では、この覚え方はわかりにくいので、止めたほうがよさそうな気がしますね。

    たまたま、あるブログで「中学2年の時に初めて…ろくろは両開口」とあるのを見かけて、ふっと。
    あいまいな記憶なのですが、地機やいざり機では、機に脚がないので、綜絖を下げることができないため、簡易綜絖のようなものを作り経糸を引上げて織る。ので・・・高機のろくろ機は、綜絖が上がるだけでなく下がることもできる・・・地機に比べ画期的だった・・・なので、両方に綜絖が動く⇒「両開口」・・・素晴らしいという意味を込めて呼んだということだった・・・ような・・・。

    地機の場合は、何もしない時は口が開いた状態のタイプもあり、下の経糸を持上げて織る(結城紬とか)ので、生産現場の上口開口とは違う場合もあるようです。
    この地機などの「上開口」に対してのろくろの「両開口」のはずなので、外来種のカウンターマーチには・・・どうなんでしょうかね?今の時点では、何とも歯切れが悪くて申し訳ないのですが。

    上口開口-中口開口-下口開口は生産現場。上開口-両開口は日本の歴史(だった?ような)
    開口と組み合わせてタイアップを覚えるのは、多少言葉を変えても説明が必要なので・・・やっぱり、止めたほうがよさそうな気がします。

    何かわかりやすい説明・・・ほしいですね。

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