2015年2月3日火曜日

天秤式をさかのぼると

今までずっと、「天秤があるから天秤式」だと思っていました。でも、「綜絖・招木・ペダルの重さの釣り合いをとるから天秤式」という説明があるようです。カウンターマーチと呼ばれるこの織機の欧米での説明の和訳が関係しているように思えます。が、肝心な後半部分がない・・・・これは、日本人がカウンターマーチを理解するときに必要な部分なのですが、欧米で手織りをする人にはあまりに、あたりまえのことなので、特に説明する必要がないのかもしれません。つまり、天秤の説明の方が大切なようです。

そんな時に図書館で見つけた本 「図説 手織機の研究」 前田亮著 平成4年5月発行
内容は、改めて紹介するとして、先史時代の織る道具から始まり、写真や資料の図版など数多くの織機が登場します。

天秤式の名称をもつ織機の図版も数多く登場します。中筒浮動型天秤腰機、中筒スライド型天秤腰機、明代中国の天秤腰機、タイ北部メオ族とヤオ族の天秤腰機、朝鮮半島の天秤腰機、出雲の天秤腰機・・・・・。実際に現地でも天秤式と呼んでいるかどうかは、定かではありません。が、腰機、つまり、地機ですから、踏み木はありません。綜絖との釣り合いをとるべき踏木はありません。自ら機械屋と称する専門分野にたけた著者が天秤式という名称を使っているのですから、余談をはさむ余地はなさそうです。

この本によると、荷物を運ぶ道具として「天秤 棒」を使うのは、アジアだけ。そう言えば、アメリカ大陸横断鉄道の建設工事の写真では、アジア系は天秤棒を担ぎ、西欧人は手押し車で土砂を運んでいました。

織機の天秤は、綜絖を上げ下げするという荷役に使う道具・・・つまり、アジアの発想。天秤式織機は、欧米ではなくアジアで生まれたらしいという話になります。

「11章 多綜織機へ」では、高機でろくろや天秤のあるが登場し、次章の「紋織機」では、中国の天工開物の花機や四川省成都の丁橋織機の図版があり、天秤の後方に紋織用の装置も見られます。この織機が欧州に伝わり、ジャカード機の発明の元になったという事ですから、北欧で使われ続けたカウンターマーチとも関連がありそうです。

ろくろ式は東南アジアに多い滑車の派生したタイプ、滑車式は西アジアを中心に分布しており、天秤式は中国の方式で、ろくろのように反対側に綜絖を吊るす形もあるが本来は綜絖は引き合げのみの形と書かれています。

伝播した西欧では、天秤棒の歴史や習慣がないために、カウンターマーチという呼び名になったのかもしれません。米国の本によると 『カウンターマーチは、ぞれの綜絖と踏み木が釣り合って動く織機ですので、制約なしに動かしたい綜絖を上下し、自由に織り柄をデザインして織ることができる織機』 と説明されています。

『天秤式織機は、上部の天秤で、綜絖・招木・ペダルの釣り合をとって経糸の開閉を行う。だから、踏木が軽い』と、織機の歴史を知らずに、天秤の一般知識だけで容易に カウンターマーチ/北欧から輸入された天秤式織機 を説明をしてしてしまうと、中国で発達した紋織物のDNAを引き継いでいる天秤式織機の決定的な特徴が抜け落ちてします。

どこで、上がる綜絖と下がる綜絖の両方を踏み木に結ぶという「改良」がなされたのかは、わかりませんが、どうやら、カウンターマーチのご先祖さまは、中国で発達した綴織などの柄を織る天秤式織機。

さらに、「織機のは改良や発達につれて、経糸のかけ方も違っていく。」という記述も興味深いです。なるほど、アジアで使われているろくろ式のやり方で、西欧でさらに進化をしたと思われる 北欧の天秤式/カウンターマーチ を使うと、中央のコードや糸綜絖の滑りの悪さなど・・・・使い難くて、うんざりするわけです。

大小さまざまな織り柄を多綜絖で織るために発達した天秤式。使いこなしていますか?天秤式織機。

余談かもしれませんが、フィンランドでは、カウンターマーチは「vipu/てこ」という言葉を用いた名前だということです。北欧では、フィンランドだけがアジア系というお話と関係しているような気もします。

※意見のある方は、掲載文の部分的な訂正や書足しをするのではなく、自分の考えとその理由を必ず書いてください。
また、手織りを学んだのは、米国式、北欧式、日本式のいづれなのかと参考としている書籍、経歴などのプロフィール、を書き添えてください。投稿は簡潔にお願いします。

4 件のコメント:

  1. こんばんは。

    ぜひ読んでみたい本です。海外生活では、図書館から借りることができないのが残念です。
    機の分類法や命名法ももいろいろあるのだろうと思いますが、著者は、なにをもって「天秤」といっているのだろうとふと思いました。説明とかはありますか?

    ところで、「唐碓仕掛」をご存知でしょうか?吉田喜寿著『織物組織篇全』(明治30年初版・36年再版)という本に、3種類(上口・下口・中口)の「唐碓仕掛」が紹介されています。今であれば「天秤式」といいそうなシステムを、この時代には「天秤」ではなく「唐碓」といっているようなので、機の装置に「天秤」という言葉を使うこと自体は、それほど古いことではないんじゃないかと思っていました。

    でも、今回取り上げられた本では、古い機タイプのにも「天秤」という言葉が使われているのでしょう?機のタイプを表すために、著者がつけた名称なのかもしれませんが…気になります。

    vipuのことを覚えていらしたのですね。ありがとうございます。
    フィンランドがアジアと共通していると考えることもできるのですね。なるほど…
    フィンランド人らしく、単に合理的に単純に、目立つ部品の名前を付けたのだ…というよりも、ずっとロマンがありますね。

    返信削除
  2. いつも長い文章を読んでいただき恐縮です。

    「天秤」についての定義や説明は書かれていなかったように思います。

    『唐碓』 唐から到来した…という意味の名前なのでしょうか。興味深いですね。
    カラウス…辞書で調べると、今は「唐臼」と書くほうが一般的なようで、意味は「てこの原理を応用した足踏み式の臼」。
    唐碓という言葉から「てこ」や「天秤」の意味だけをイメージするのは、素人考えですが、ちょっと難しいような気がします。

    著者は、場所を示すための国名も当時の名を使うべきか現在の通例となっている呼び名にするかなど執筆にあたってさまざまな問題を感じたと書いています。同様に、時代によって同じモノでも違う呼び名になるのをどのように扱うかという問題もご承知だったのではないかと思います。

    著者の経歴が、本を返却してしまい確認に時間がかかりそうなのですが、たしか機械の開発にかかわっていたという事ですから部品の名称や呼び名については、機械関係や業界の現在の通例をベースに書かれているのだろうと思います。

    さて、「天秤」はその装置/部品がある織機は、天秤と入れた名称がつけてあるのですが、「釣り合いをとる」という「働き」をしめす例は、この本では見あたらなかったということに気が付きました。
    小学校では「上皿天秤はかり」を学ぶので、私自身「天秤=釣り合いをとる」と思い込んでいた所もあるのですが、これ自体が近代化とか西洋化の影響かもしれないと…。
    実は、「荷物を持上げる/運ぶ」というのが、「釣り合いをとる」より重要で、これが昔からの東洋での本来の「天秤」意味ではないかと思ったわけです。ですから、物を持ち上げる「てこ」のほうが言葉の意味あいとして近いことになりますよね。

    実は、この本には、日本で使われた織機についての『続編』があります。
    中国で発達した織柄を得意とする織機(天秤のある織機)が京都に伝わり、身分の高い人のために錦を織ったという内容も含まれている?ようです。『唐碓』についても『続編』に書かれてあるかもしれません。

    「資料や検証も充分ではないから大胆な推理だという方もいるだろう。古い文献が発見されると違ってくるだろう。」とも著者はいっています。手織の歴史は解明されないことが多い…そんなところにわくわくしますね。

    返信削除
  3. 丁寧なお返事をありがとうございます。新しい記事も拝見しました。

    その後インターネット上で、『手織機の構造・機能論的分析と分類』(吉田忍)という文献を見つけ、少なくてもその中でいう「天秤(唐碓も含む)」がどんなものなのかは納得しました。

    「天秤」って、「天(すなわち上部にある)秤(竿秤のようなもの)」というところからきている言葉じゃないかと、機の絵を見ながら思っているところです。

    「天秤」というと「釣り合い」を連想してしまう…というには同感です。カウンターマーチが日本でもよく知られるようになり、それらを「天秤式」というようになったころには、天秤=釣り合いをとる、というイメージがすっかり定着していたのではないでしょうか。

    「綜絖・招木・ペダルの重さの釣り合いをとるから天秤式」という説明も、そんなイメージから出てきた過剰解釈ではないかと、実はちょっと疑っています。

    言葉についても道具についても、考え出すときりがありませんね。

    返信削除
  4. 「考え出すときりが・・・・・』本当にそうですね。
    結局、歴史がある道具/機械だからという事になるのでしょうか。

    知らず知らずのうちに自分の育った環境の常識らしきもので解釈や判断をしていることが、この件にかかわらず、予想以上にあるのではないかと思うことが最近しばしばあります。

    最初に手織を習ったころから、海外の織機だからかっこいい。すごいに違いない。と、天秤式/カウンターマーチに憧れていました。
    ただ、4枚綜絖の3枚を上げられる。奇数枚数の組織が織れる。という程度で、納得のいく説明はみつけられませんでした。資料の探し方が悪かったのかもしれません。

    料理で言えば、フレンチもイタリアンもハンバーグも全て「洋食」と呼んだ時代に似ているのかもしれないと思いながら、本を読んだり、本当だろうかと織ってみたりしています。

    そんな状況に、いつも、フィンランドから適切なコメントをありがとうございます。
    ブログも興味深く拝見しています。手織の世界が広がる気持ちがします。

    返信削除