2013年9月11日水曜日

やはり「つるのおんがえし」ですか

夏の終わりは、同窓会のシーズン。久しぶりに友人に会えば、「今、何している?」という話題。
「手織り」と言うと、必ず「あの・・・つるのおんかえし?」せめて、天空の美女、織姫と彦星の話でお願いしたいと思うのですが、年齢の壁があるようで。
「手織は大変だから、身を削るような思いをして、引きこもらないとできないのでしょ?」 あげく、「ホントは、つるの羽をむしって織った・・・?」 これでは、動物虐待物語。

たまたま会ったデザイン関係の学生さんは、織と言えば「つるのおんがえし」しか頭から出てこないという。そして、「あの話は・・・・好きでなかった。」という。羽を抜くのは痛そうで、羽のない醜い姿を見られたくなかっただろう・・・・」と、暗い気分だという。

「トン、トン、パタリ」にあこがれる人もいるわけですが、「ひきこもり」や「暗い」イメージは、ちょっと困ります。おとぎ話とはいえ、もう少し史実的なお話にはならないのでしょうか?

ツル ・・・ 鶴 ・・・ ツル ・・・ 鶴 ・・・ ツル ・・・ 鶴 ・・・ ツル 
 
羽は・・・羽のように白く、軽くて暖かい糸・・・絹。
反物や糸は古くから租庸調として納められ、価値が認められていた品。明治の初頃まで、綿や麻を着ていたという農民の暮らしに、絹は見る機会すらなかったかもしれません。
 
では、「つる」は?
5月と8月(再)のNHKで、新歌舞伎座の「こけら落とし四月大歌舞伎」で、「壽祝歌舞伎華彩 鶴寿千歳」の放映がありました。宮中の皆で祝賀の舞をしていると一羽の鶴が舞い降りてきて平安の世を寿いで舞を始めるという内容です。
 
鶴を舞う衣装は、歌舞伎では受け継がれてきたはず。鶴の冠。着物は白地に金の縫い取り、帯は鶴の羽の模様が入った朱色地。朱の紐飾りがついた薄衣。薄衣はそのままに、時代をさかのぼるように、朱の帯を朱の袴に、冠を烏帽子にしたら、「白拍子」の装束となります。

諸国を旅して舞を舞う・・・白拍子は渡り鳥の鶴にイメージが重なります。それで、各地につるの登場する昔話が多いのかもしれません。白拍子が歌舞の礼として裕福な人から絹糸を与えられ、持って旅をしていたと考えられなくもありません。

つまり、話はこのようになります。
諸国を旅する白拍子は、道中にけが(病気)をする。年寄りの夫婦は手当をする。傷が直り白拍子は持っていた絹糸を使い反物を織る。その時代、身分の髙い人しか手に入れることができなかった絹で織り上げた美しい反物は非常に高い値段で売れた。高価な絹糸は持っているだけで、疑われたり罰せられる恐れがあったであろう。また、織り方を知られぬように、戸を閉め切り隠れて織ったのかもしれない。

この話には、やさしい心を失わずに接すれば恩を返してもらえ、約束を守れば富を次々にもたらしてくれるという教訓が書かれていると言われます。そして、機織りが上手であれば富が得られるということも書かれています。
美しい女が機織りをして家を豊かにするという発想は、天上の美女が綾錦の技を伝え国を豊かに国を富かにしたという神話の時代につながるのだそうです。

機織りが上手でないために嫁のもらい手を母が心配したという思い出話は、まだ所々で聞かれます。上手であれば、白拍子にならずに家族に大切にされたはず・・・・やはり、つるは美しい女のたとえであり、願望と考えたほうが自然のようです。

昔ばなしを見つめると、教訓、風習、貧富、暮らし、時代の陰、次々とあふれだしてくるようです。

 
今も時折、羽を抜いている気配を感じる時があります。鶴か白鳥か・・・定かではありませんが。 

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