2015年9月8日火曜日

日本のこの数十年の手織りを整理してみる-3.組織図は工場から

組織図は、「織の設計図」と言われています。,では、誰がこれから織る布のイメージを具体的な組織図として描くのかという疑問もあるのですが・・・・。

白黒に塗られた方眼を「組織図」と呼び、周囲に、綜絖通し順とタイアップ、踏み木順がついているのを「完全組織図」というらしいのですが、本や人により呼び方が違うようです。「方眼の組織図」・・・・海外の組織の解説書には、必ずありますが、普通の手織の本で見ることはあまりみかけません。

「増補 織物意匠法」昭和56年たぶん再版 を見ると、白黒の方眼でいろいろな組織と名称、組織図の経糸は黒、朱子は裏織にする理由や組織図を描くための布地の分解のしかたなどがかかれています。たぶんこれがジャカード工場の意匠関係の基礎知識。国内の手織りの本で、なぜここまでむつかしいことを・・・と感じる用語や組織がほぼすべて書いてあります。

日本にも導入された柄織の動力による機械化、大量生産の基礎はヨーロッパの手織機と組織のノウハウだったと考えるのが自然です。欧米の滑車式も日本のろくろ式も庶民が生活に使う布が簡単に織れる構造の織機ですから、複雑な織り柄や詳しい組織図など なかった/いらなかった と思えるのです。

しかし、2段吊り3本ろくろ式織り機の登場で、4枚綜絖でいろいろな組織が織れ、海外からも目新しい布が入ってくるようになれば、組織図の知識や説明も必要になる・・・日本で使われていたたろくろ式の手織りに、海外から生産機と共に入ってきた組織のノウハウ を接ぎ合わせたと考えると、疑問や矛盾にほぼ説明がつきます。

2段吊り3本ろくろ式織り機は、柄を織るにもそれなりに優れて、それなりに柄も織れたので、わざわざ欧米の織機に買いかえて改めて欧米の知識を学ぶなど思い付かなかった・・・・使い慣れた道具をかえることは、勇気がいります。ただ、やってみると、無理や矛盾がなく非常に自然です。

ろくろ式の織機では、踏み木と結んだ綜絖は下がり、緯糸が表面に出るのですが、組織図の経糸は「黒」という 生産現場の決まり にしたがったために、欧米とは異なる、「それ以外の部分を黒く塗る」という生理的には描きにくい書き方になったのだろうと思います。この書きかたは、欧米の手織の標準とは異なります。柄の出かたや糸飛びの確認に使うのなら、どちらが白か黒かにはあまりこだわる必要はない訳です。

日本の手織の入門書には、一般的なろくろ式4枚綜絖の織機では織れない8枚綜絖や16枚綜絖の組織図が基本組織として数多くのっていたりします。工場の資料集から抜粋したような組織図です。生産現場の都合からくる「朱子組織は裏でかく」という説明まであったりします。

組織図の使い方では、最初に組織図から綜絖通しと踏み木順を書きだす方法が説明されます。この組織を織るために、まず必要な手順ということだと思いますが、欧米では、綜絖通し順だけで柄を伝えあうこともあったようですから、綜絖通し順から組織図を描きおこすことが重視されます。

また、せっかく描いた組織図(意匠図)とは、上下が逆になるのに、踏み木順は上から順番に踏むという説明もあります。さすがに、織りにくいので、「組織図に上下がない場合」と書き足してある場合もあります。でしたら、どのような柄でもいつも下から順番に踏めばよいだけのこと。たぶん、動力機のビームからはずして検反するときに柄の上下が正しいと見やすいからではないかと思います。

織機の開口の説明に使われる「上口・中口・下口」も生産現場の動力機の性能を表すに使われる用語です。和訳をするときに流用して誤訳を生んでいます。

二重織の組織図はわかりにくいので、海外では手織の場合、組織図を使わない説明が多いのですが、日本では、やはり組織図の説明が必ずあります。さまざまな朱子の組織点の割り出し方など、組織図の読み書きを専門的に理解することが必要とされているようです。

専門性に価値があるのかもしれませんが、ジャカードの部分組織に使うわけでもないのに、一見ほとんど同じとも思える微妙な違いの組織から1つを選んで、多綜絖の織機で手織りするとなると、かなりストイックなことになりそうです。

日本の海外風の手織りは、直接欧米の手織りには学ばず、工場に意匠に学び、織機の構造の用語までも参考にしたため、いまだにより高度な知識はさらに生産の現場から学ぶという意識が抜けないのではないかと思ったりします。

手織で学びたいのは、用途(マフラー、ランチョン、ひざかけ・・・)にあった素材や組織や色の組合わせかた。手織だから・・・複雑だから・・・といわなくても、ちょっとすてきだなと思えるものが織りたいと思いませんか。


手織で柄や組織をメインにシンプルに織ってみたかったら・・・・。
柄を織るために、生まれ、進化してきた「綜絖の1枚1枚が制約なく動く織機」を使って、一緒に進化してきた組織の考え方を学んでみるがよいと思います。ろくろ式で学んできた人は一度リセットして見る・・・。学校やお教室、日本語の解説書とか、あるとは思うのですが。

織と織機は、人間よりも長い進化の歴史があるといいます。ろくろ式とカウンターマーチ式、着物と洋服、下駄と靴、和食と洋食、日本語とゲルマン系の言語・・・・東洋と西洋の文化の違いなのだろうと思います。


※文中誤解や間違いでお気づきの箇所があり、ご指摘やご教授等をくださる場合には、手織りを学んだのは、米国式、北欧式、日本式のいづれなのかと経歴などのプロフィールをお書き添えください。この文への訂正、添削はご遠慮ください。

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