2016年9月20日火曜日

書籍:誰にでもできる”織りもの” 現代の織り

なぜ今も手織りをするのか・・・という個人的な疑問から、先生方の本はできるだけ読みたいと思っています。

この本に限らず、「手織りをする「織りとは」」という書籍では、手織りの手順と技法だけでなく、織の歴史、組織、織機の種類、糸染め、糸紡ぎ、繊維の種類・・・・織りに関係するさまざまな技法と知識が満載されています。

どの本もすべてが網羅されていると思いたくなるのですが、よく見ると、とても詳しい説明と、それほどでもない部分があることに気が付きます。

表紙の写真の有機物のようなオブジェで、編者の名を記憶していました。

誰にでもできる”織りもの” 現代の織り 小名木洋一編 
平成8年3月25日発行

京都を本拠地として、芸術の学校で教鞭をとっている(いた?)著者と、7名の講師が分野別に執筆しています。

織物前史に始まり、手作りの道具、織機の種類、手織りの手順、技法、糸染め、化学染料、植物染料、原毛の洗毛から糸紡ぎ、糸紡ぎの道具、繊維の種類と歴史と幅広い内容です。

「はじめに」では、「他者との差別化が服飾の本質であり、世界に一点しかないもの、つまり自分自身で織ったり染めたりしたものを身につけることは、最高の贅沢といえるでしょう。」とありますが、服地の制作については記述がなく、「着物を織る」という章があります。

やはり、特筆すべきは、最初に登場する著者が発案し命名したと思われる板釘機、木枠機、手足機3種類と腰機の作り方と織り方。後半には、同じく著者が発案し命名したと思われる「立体織」。

この3種類の手作りの機と腰機では、それぞれ必要な材料、縦糸のための釘を板に打つ方法、枠の作り方、縦糸の張り方、綜絖、整経などが詳しく書いてあります。この説明を読めば、織り機を購入しなくても「織りもの」ができるということになります。「立体織」では、発想の元となった技法から織り方まで丁寧な説明があります。

既存の織機や道具にとらわれずに自由に発想して、織りたいものを工夫して織る/制作することが、編者の作家としての原点なのだろうと感じられます。市販の織機や手作りの織機、改造機も数多く紹介されていますが、これらも編者にとっては、求める布や効率的な生産のために織機は改造されてきたという実例にすぎないように見えてきます。

技法は主につづれ織りと絣、着物の織り方。多くの写真とともに丁寧な説明があります。一方、組織や組織図については、たった4ページ程度。

さて、さまざまな本を読むたびに気にしている「天秤式織機」の説明は、
「唐碓式ともいって、(中略)踏木の操作で各々の綜絖が単独で上がりますから、緯浮きの多い組織を織るのに便利です。ただ、上口開口なので(中略)このタイプは北欧やカナダ製などに多く、毛織物に適しています。」中国の紋織機と北米のジャックルームを合わせたような説明となっています。掲載されているイラストは、北欧のカウンターマーチ、つまり水平天秤式織機ですが、綜絖1枚に天秤1組と上下ラムだけなので、説明文の矛盾に気付くことはできません。

「むすび―なぜ織るか」では、「織ることを通じて、創造の過程で得た孤独に耐えうる力、自己に打ち克つ力によって、堅固な人格を確立してほしいのです。」とあります。やはり、これから織りをする人、学び続ける人への本です。

この本の出版から20年を経た現在。手を動かし、知恵を使い、時間をかけて丁寧にモノをつくることが、遠い昔のことのように感じられるのはどうしてでしょうか。私が齢を取ったということでしょうか。

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