2015年10月20日火曜日

組織図の書き方 欧米とろくろ式

ついでですから、『綜絖通し、踏み木、タイアップから組織図を書くやりかた』の欧米と日本のろくろ式の違いを書いてみます。

アメリカやスウエーデンの書籍では、踏む踏木を上のタイアップへとたどり、印がついている綜絖を見つけ、綜絖の通し順で印がついている所は下へおろして組織図を、■に塗る

踏木を踏むと経糸を通した綜絖が上がるジャック式の織機では、そのままで経糸を示す「■(クロ)」になります。踏木を踏むと綜絖さがる滑車の織機を使用するスウェーデンやスコットランドの組織図やイラストでは、経糸が「□(シロ)」で、緯糸が■」

米国の書籍『THE COMPLETE BOOK OF DRAFTING』の「経糸と緯糸のどちらを描くか?」という章があります。つまり、黒で描くのは経糸か?緯糸か?

著者;Madelyn van der Hoogtは、「綜絖通しとタイアップ、踏み木順から組織図を描きおこす場合、綜絖に通っている経糸を書いていくのが描きやすいから、クロになる。」と言っています。つまり、普通、白い紙に黒いペンで書くからという単純な理由をあげています。

そして、「組織図のどちらを塗るかはそんなに大切なことではない。どちらが縦糸か緯糸か自分でイメージできて、その通りに織機を使えればいい。」と結論を述べています。

たしかに、「どのような柄が織れるのか?」「この部分だけを繰り返したい」「組織が飛んでいないか」などなど・・・確認をするなら、どちらが■でも□でもかまわない訳です。


さて、わたしの頭の中は、始めに覚えた・・あまり■□にこだわらない・・欧米の描き方。やっと自分が日本では『超少数派』ということに気がつきました。
日本のろくろ式の綜絖は、スウエーデンの織機の滑車式と同じ動きをしますが、意匠図(組織図)では、経糸が『黒』という決まりを守っています。わたしが見つけた描き方は、2種類。

『ホームスパンテクニック』では、
「・・・・ろくろ式やスプリング式の機は、踏むと綜絖が下がるので、結ばれていない□の部分の綜絖通しを組織図上に■で描きます。」とあります。<その1>

「■部分の綜絖通しを組織図上に□で描く」という方法もあります。<その2>

ろくろ式組織図の描き方』名まえをつけるとわかりやすくなると思うのですが・・・・・・どちらも同じ名称でよいのでしょうか?

「手織り手紡ぎ工房』の完全意匠図(P47)のろくろ式では、「・・・・組織図の□点の番号と踏み木の番号×印で示します。・・・・・・(中略)・・・・組織図の□点の経糸が通っている・・・・」
組織図の緯糸□を基本基準として考えていきます。本には説明がないのですが、<その2>のやり方が基本になっているようです。『ろくろ式完全意匠図の書き方』と名付けたくなるのですが、次ページのある天秤式でも同じやりかたです。

欧米式のわたしの頭は、「天秤式にも『ろくろ式組織図の書き方』を使用して完全意匠図を作成している。」という理解になりました。ですから、『天秤式〈踏み木と綜絖の結び方〉』P56では、綜絖⇒補助木上段(上ラム)⇒踏木と結ぶのは×印。天秤⇒補助木下段⇒踏木と結ぶのは印なし というスウェーデンスタイルです。

「『手織り手紡ぎ工房』の天秤式織機の完全意匠図は、ろくろ式(の描き方)で考え、スウェーデンスタイルのタイアップをする。」 この一行でお互いのやり方がすぐに理解しあえるといいのですが・・・・。

※文中誤解や間違いでお気づきの箇所があり、ご指摘やご教授等をくださる場合には、手織りを学んだのは、米国式、北欧式、日本式のいづれなのかと経歴などのプロフィールをお書き添えください。この文への訂正、添削はご遠慮ください。投稿は簡潔にお願いいたします。

2015年10月16日金曜日

国内の完全意匠図と海外の組織図の違い

「天秤式(たぶん、天秤式の完全意匠図の書き方)は、女子美の先生とアメリカ人の先生から習いましたが、女子美の方がわかりやすかったので、本はそちらにしています。」 ちょっと意外でした。
この本とは、『手織り手紡ぎ工房』 監修;馬場きみ 著者;彦根愛 平成25年発行 

 
完全意匠図とは、『綜絖の通し方、踏み木の踏み方、タイアップが、まとめて1つの図として表されたもの』(P47)とあります。この本では、具体的に使用する織機にあわせて組織図から綜絖通し方を考え、踏み木を考え、タイアップを考える。』というやり方が詳しく説明されています。
つまり、織機の種類によって異なる・・・・「1本の踏み木に1枚の綜絖を結ぶ とか 1本の踏み木に数枚の綜絖を結ぶ」 や 「踏み木を踏むと結んだ綜絖が上がる/下がる」という問題を、完全意匠図を作るときに同時に解決しています。これがたぶん女子美で習った方法なのだろうと・・・・本には書いてないのですが。

組織図から綜絖通し方、踏み木、タイアップを求めて完全意匠図にするやりかたは、スウエーデンの組織の本では、綜絖通しとタイアップを一度に考えますから、確かに違います。米国では?と組織について初歩から詳しく書いてある米書『THE COMPLETE BOOK OF DRAFTING』を見ると完全意匠図の読み方と組織図の書き方の説明しかありません。
アメリカでは、手織のための基本的な組織やバリエーションが集められた「パターンブック」が数多く販売されていていますので、組織図を完全意匠図にするやり方は、手織をするだけなら、特に知らなくてもよいことなのかもしれません。

アメリカのパターンブックやスウェーデンの作品集などでは、綜絖通し、踏み木、タイアップしか書かれていないことがほとんどです。柄の出方や細かな確認のために組織図が必要なときに自分で描けるように・・・ということで、一般的な手織りの本の説明にあるのは、綜絖通し、踏み木、タイアップから組織図を描く方法』です。

膨大な数の組織が昔から伝わる欧米と海外からの貴重な織り柄の布を分解して意匠図を書いてきた日本の違いなのだろうと思います。このあたりに意匠図と組織図の呼び方やニュアンスの違いの原因もありそうなのですが・・・・。

さまざまな織機があり、新しい織機も生まれたアメリカでは、織機の種類によって異なる・・・・『踏み木を踏むと踏み木と結んだ綜絖が上がる/下がる。』という問題は、タイアップ図の記号のあり/なしを入れ替える、つまり、反転させるというのが一般的な説明です。

米書では『1本の踏み木に何枚かの綜絖を結ぶ』のは、マルチフルタイアップ、最近はレギュラータイアップ。『1本の踏み木に1枚の綜絖を結ぶ』のは、ダイレクトタイアップ。レギュラーは天秤式用で、ダイレクトは綜絖のある卓上機用という決めつけはありません。

女子美で習ったことを踏襲するこの本では、タイアップの名称を書くよりも使用する織機名を書いた方がわかりやすいから・・・、ろくろ式でレギュラータイアップにすると開口しにくい場合があるから・・・・と、誰にでも使いやすい配慮をしていると思えます。

欧米の書籍が入手しやすくなったがために、どのような考え方か、やり方かを整理しないと混乱するばかり。とくに日本の欧米風の手織りがむつかしい・・・・女子美式とか京都式とか名称をつけたい気がします。

※文中に誤解や間違いでお気づきの箇所があり、ご指摘やご教授等をくださる場合には、手織りを学んだのは、米国式、北欧式、日本式のいづれなのかと経歴などのプロフィールをお書き添えください。この文への直接の訂正、添削はご遠慮ください。投稿は簡潔にお願いいたします。

2015年10月14日水曜日

書籍;Tartan&Tweed 手織りのためのスコットランドチェック

やっとこのレベルの手織りの本が日本でも発売された・・・・と思いました。


手織りをやり方から勉強する本・・・ではなくて、こんな綺麗な布を織ってみたいと思う本。いつか手織りをしてみたいと思う本。


タータンチェックというと、有名デパートの包装紙、福岡出身の音楽グループや大勢の大勢の女子の歌グループの衣装の印象が強烈で、元気な若者を思い浮かべてしまうのですが、千鳥格子とガンクラブチェックに始まり、ゲレンチェック~タータンへと続くこの本は、そんなイメージを一掃してくれます。


まずは、巻頭に著者のことばがあるのがいい。対向のページに、著者をよく知るガーニー氏からのことばがあるのもいい。著者が今まで手織りとどのような時間を過ごし、この本を出版することで誰に何を伝えたいのかを感じ取れます。

スコットランドの風景、ヒツジ、ツイードやタータンを着た人々、布地の写真、歴史と文化の話。豊富な写真から、チェックやタータンにある本来の魅力と伝統がもたらす力強さを改めて感じます。

日本式のような海外風のような手織りの解説本が気になることがしばしばあるのですが、以前、参考にした英国の手織り作家の本と比較しても、この本がタータンとツイードについて基本に忠実な内容だと改めて思います。

『Tartan&Tweed 手織りのためのスコットランドチェック』 明石惠子著 2015.9 誠文堂新光社

さて、普通、格子や縞の柄をデザインするとき、何もない紙に向って描きはじめます。単純なデザインになりがちで、できあがった柄の良し悪しは「個人のセンス」や「個人の頑張りかた」のような話になりがちです。
どうしたら、あんなに規則的で複雑なチェックができるのだろう・・・・。

この本の興味深い点は、チェックを加える、組み合わせる。色を変える、加える。という柄をデザインするためのやりかたが豊富な写真と共にわかりやすく説明されていることです。
オリジナルな柄はもちろん、よく見かける柄をアレンジして、自分にあうようにすることも容易にできるようになれそうです。応用すれば、スコットランドチェック以外の縞や格子をデザインするときにも役に立つと思います。

手織りのノートの作り方や織りやすい本数、糸の太さとデザインの関係についても紹介されています。手織りをするための基本的な情報・・・・色の選び方、糸の密度、手織りの工程などは本の最後にまとめてあることも見やすく、使いやすいですね。

巻末の『織の工程』での経糸の巻き方は、アメリカなどでよく見かける「オーバーキャッスル」のやりかたです。あまり日本では紹介されていないようですので、ジャックルームなど背の低い織機を持っている人は是非参考に。

余談ですが、『知っておきたい手織りの基本と本書のルール(P.018)の織』のイラストでは、経糸が白、緯糸が黒になっています。スコットランドは、やっぱり「カウンターバランス(ろくろ・滑車)式の文化圏」だったに違いないと、大爆笑。ろくろ式なのに、経糸を黒と決めている日本のやり方には、やっぱり無理があるようです。

著者は、スコットランドで、つまり英語で手織りを学んだためか、「粗筬/粗筬(写真上)」を「仮筬」としています。人により学校によりさまざまなで、「ラドル」という人や表記もありますから、そのままRaddle=ラドルでよかったのでは・・・と思います。

著者のブログは、時々拝見しています。作品を真似されることに神経を使い、確か文章は読むのも書くのもお嫌いということだったと思いましたが、なぜ、突然、このように充実した内容の書籍を出版されたのか?今後の著者の活躍に注目です。