広幅で躯体がしっかりとした北欧のカウンターマーチ式(天秤式)織機は、専門の大学などでタペストリーやアート作品などを制作するために、こぞって購入したと聞きます。欧米に倣ったのかもしれませんが、タペストリーしか制作できない竪機と異なり、綾織や変化組織も織れる「多用途の織機」ということも理由だったようです。もしかすると、欧米では、身近にあった織機だったからという理由でアート作品の制作に使われたようにも思えます。ちょうど、日本人が身近にあるろくろ式で海外の織り柄を織れないかと試したように・・・。
中世のタペストリーは、装飾だけでなく、城の石壁から伝わる冷気を和らげる役目があったという話ですが、エアコンの効いた現代空間では、ウールを使う必然性もなく・・・案の定、より自由な芸術的な創作活動には、平行に規則正しく張られた経糸すら制約となったようで、オフルーム/織機を使わない創作へと移っていったように見えます。
織機で何か織りたい・・・・ではなく、こんな布が欲しいから、欲しい布をうまく織れる織機が必要というのが、本来の順番だろうと思います。織機は「道具」ですから。
その土地で収穫できる素材を使い、その土地の生活に使うための布を織る。ぐあいよく織れるようにと織機もそれにあわせて改良される・・・織機や織物の本を読むと、環境に適応して変化し、進化していくありさまは、遺伝子の進化の歴史のようにも感じられます。これに気付かずに、織物を教えたり、習ったりは混乱するばかりのようで・・・。
日本では、。絹や麻、綿で着物にする生地を織ってきました。
北欧では、麻を使い、キッチンやダイニング、家庭で使うハンドタオルやテーブルクロスなどを主に織り、娘が結婚するするときに持たせたとか。
サテンのテーブルリネンもベットカバーも、柄があると素敵な一枚になります。組織で柄を織りだすために、8枚ほどの綜絖が制約なしに自由に動く「カウンターマーチ式」の織機が最適だったと思います。
柄を織りだすために、糸が飛び組織がゆるくなってもハンドタオルは柔らかくなり、ベットカバーは厚みをまして暖かくなる・・・・・。しっかりとした平織が適している着物地とは、求める生地の意匠性も性質も全くことなります。当然、織機に求める性能も全く異なります。生活のしかたの違いということになるのでしょう。
家庭で受け継がれてきた手織と文化をそのまま紹介したのが、山梨幹子著に代表される「スウエーデン織り」。色彩も柄も美しいのですが、織物の組織をもっと専門的に学びたいと思う人には、もの足りません。
しかし、国内で欧米式の組織の解説書を見かけたことがありません。
芸術や美術という名のつく学校でよく使われているというカウンターマーチ式の織機。『1本の踏み木に綜絖を何枚つないでも開口がスムース』という説明はよくありますが、柄を作り織るために・・・というこの織機の特性は、どの程度まで認識されていたのでしょうか?
教えている学校はあるのでしょうか?使用しているテキストは外部秘?ろくろ式よりもわかりにくいからと執筆する人がいない?読みたいと思う人がいないから出版されない?海外の本からは組織図だけを見れば同じ布が織れれば満足だから?
欧米の作品も装丁も美しく、説明もわかりやすい書籍の著者の経歴を見ると、ほとんどがテキスタイルデザイナーと教師を兼務している方です。論理と時代にあわせたセンスの両面を磨いているのだろうと思います。
この日本で、もし、手織りは「経糸と緯糸の交差を楽しむだけのノスタルジックな高齢者の趣味になった。」という評価があるのなら・・・・・この数十年は、大きな空白の部分が残されたままだったのかもしれないという疑問が残ります。
※文中誤解や間違いでお気づきの箇所があり、ご指摘やご教授等をくださる場合には、手織りを学んだのは、米国式、北欧式、日本式のいづれなのかと経歴などのプロフィールをお書き添えください。この文への訂正、添削はご遠慮ください。
現代的な造形タピストリーを織らなくなった理由として、ホテルや商業施設のエントランスに飾るには、消防法による「防炎性能が必要なこと」をあげる方もいました。
返信削除使う素材が限られたり、防炎加工によって、色彩や風合いが変化することもあり、燃焼試験のためのサンプル制作や手続きなど、個人でするには大変だというお話でした。