2018年10月16日火曜日

『The Primary Structures of Fabrics』を読み解く 2

前回からの続きで、今回は、多層の織です。この本を取り上げるきっかけになった「相補組織(仮称)」。書籍『もようを織る』小林桂子著によると「日本の織物用語として、概念がない組織」が登場します。

b.コンパウンドウィーブ;Compound weaves は、「要素の組合せ」の分岐まで戻ると、シンプルウィーブが「構成要素が2組」の分類です。したがって、コンパウンドウィーブは、「構成要素が3組以上」の分類であることがわかります。コンパウンドウィーブはシンプルウィーブに「組」を加えたと考えればよさそうです。分類の基本は「組」ですから、布になった状態とは限定してません。

この分類は大きく2つに分かれ、構成要素2組からなるシンプルウィーブに「タテ方向かヨコ方向のどちらかを1組を加える」と、「2組からできる布になった状態で加えて多層になる」です。つまり、「組で多層」と「布で多層」という2つの分類です。

★日本の織物の組織を勉強した人の話では、層になる織物は、同時に布を重ねて織る「重ね織」や「二重織」の「布で多層」しかないということ。すると1組だけを加えた場合のタテ糸またはヨコ糸だけが二層になるという構造は、未知の組織や新しい概念の発見(?)です。定義を探して、相補組織と仮称を付けたようです。
※二層より二重という表現が一般的ですが、「二重」には二重織のイメージがあるので「二層」にしました。


1). 「組で多層」;組を加えてコンパウンドにした;Compounded by adding sets of elements 
組数の加え方は、タテ方向が二層または多層でヨコ方向は一層。これを、90度回転して、タテ方向が一層でヨコ方向が二層または多層の構造になります。この分類は、さらにa).とb).に枝分かれします。

a).サプリメンタリ―セット;Supplementary setsでは、タテ方向かヨコ方向に「太さなどの違う組」を加えて多層になるという解釈になります。表裏の柄の出かたは違いますから、裏の組織は異なりますね。さらに(1)柄を入れる場合と(2)無地で保温や補強などの場合で分類してあります。

★日本では、この織り方は、一重の布を織りながら太いヨコ糸などを「柄になる別の糸を織り入れる」とか「はさみいれる」という感覚のようです。この技法名の「補緯」という用語を使い、分類項目名にすると「基本は一重の布(一層)」という印象です。すると、b.コンパウンドウィーブの分類には、一重の布(一層)と二重の布(二層・二重織)が混在すると思いたくなりますね。


b).コンプリメンタリ―セット;Complementary sets が、前分類 a).と異なるのは、加える組の糸の「太さなどが基本の布と同じ」という点です。 a).と同様に、タテ方向が二層や多層でヨコ方向が一層と、タテ方向が一層でヨコ方向が二層や多層があります。しかし、表裏の組織は同じでどちらも表として使える布(リバーシブル)になるという説明です。平織と綾織があります。

★『もようを織る』では、平織のみに相補組織の仮称を付け、日本の織物用語として概念がないとしています。でも、サンダー方式の組織見本をよく見ると手織り教室などで教わるという「昼夜織」。手織りの本やブログでよく見かける特徴的な組織図(右図)です。


2).「布で多層」;布の構造を追加して組み合わせてコンパウンドにした;Compounded by combing complete weave structures 
シンプルウィーブに構成要素を2組以上を布にして加えたとする分類。いわゆる重ね織や多重織はこの分類に含まれます。「a;重なった布が入れ替わり、各層の間が空いている;Interconnected」と「b;各層が綴じ合わせてある;Integrated」の2つに区分しています。


★『もようを織る』(P.255)では、相補組織を説明するために分類した織物組織の項目名の箇条書きがあります。「組織を分類するのが組織論」だからでしょうか。

あくまでの個人的な意見ですが、布の分類が、組織論とか組織を説明するためにあるというのは、「織ること」に執着しすぎているのような気がします。他に役立つことはないのでしょうか?

博物館や美術館の膨大な布の資料の保管、整理ため。自分の持っている布について詳しく知りたい。一般的な名称を知りたい。似たような布を探したい。産地や時代を調べる手がかりにしたい。論理的にわかりやすく分類することで役立つことはいろいろありそうです。

古くから緞子、金蘭、ダマスク・・・。色や柄が美しく織り出された布に憧れ続けた私たち日本人には、海外の布の知識といえば「組織」しか眼中にないのかもしれません。

日本に存在しなかった概念は、「相補組織(仮称);コンプリメンタリ―」ではなく、「布の分類学」のようです。50年以上も前に発表されたこのレポートの理論と概念が、理解されぬままに、日本の年月は過ぎたとは思いたくないのですが。

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