2018年9月25日火曜日

書籍「もようを織る」 小林桂子著

北米の織り物の記述が気になって購入した本です。

古くてきしむ木製のドアを開け、埃の積もった部屋に入ったような気になります。カゴ、タイル、布裂れ、紐、書籍、メモ書き、織りかけのサンプル、雑誌、旅行の昔話、写真、博物館のカタログ、洋書、織機の部品、膨大な資料・・・・・創作活動をする人にとって興味は尽きることがないらしい。「世界中の機や文様を見ることはできないが…」とご承知のようですが、世界中の地域と原始からの歴史を手元の資料で網羅しようとしたようにも思えます。組織ともようと織機の3つを関連付け、×世界各地の布 ×原始からの歴史 をつまり取り扱うのは掛け算。つまり3次元。どう考えても、たった一人で、そう簡単に論理的に整理できるとは思えません。

1ページごとにテーマがかわっていく編集方式、イラストや写真、図版が多く、文書や説明が少ないので、何もかも詰め込んだという印象の本です。

著者は、自宅に西陣のジャカード装置を付けた織機を設置して、織物作品を制作するとあります。

ですから、興味の中心も得意分野もこの「地」と「柄」が別々のタイプの織機と組織で、この本の主な内容になっています。

著者にとっての「もようを織る織機」とは、布の本体の「地」を織る地綜絖と「柄」を織る柄綜絖の2種類がある織機のこと。
そして、「織機とは、綜絖をそなえた道具」だとして、棒と棒の間にタテ糸を回し張り、糸綜絖さえ付いていれば、原始的な道具でも、織機なのです。そして、綜絖と柄経の上下の説明できれば、織機の説明になると思っているのかもしれません。
これは一般的な4枚綜絖の織機を使う手織りとは、全く別ジャンルですから、ろくろ式や天秤式の織機を使っている人の手織りの参考になるところはほとんどありません。

項目は紋様の発生、もじり織など組織別、色糸の紋様、相補組織、トジの技法、ベルベット、ジャカード機。そして、アンデスの紐織り、著者の推測技法、国内外書籍の引用も加わり、多様で、ごちゃ混ぜ感すらあります。著者の真意はどこにあるのかと疑問を感じます。地域ごとに代から原代までの紋織物を実写真と組織だけでいいので、解説して欲しかったと思います。

しかし、著者は、従来のように組織別を基軸にし、もようという観点から追加や若干の変更を加え、いろいろな手法で組織を説明することで新味を試みています。
タテ糸と綜絖を通した織機の部分の絵を描いたり(これが、織機の説明?かもしれません)、サンデー方式という細い紙を組み合わせる方法を使ったり、点と矢印で示したり、米国書の図がそのままだったりと、様々です。それぞれの組織を単純に比較できず、結果、わかりにくい。
一般的な白黒の組織図で組織と綜絖通しなどの関係を見なれていると、この本のさまざまな組織の図や綜絖通しのイラストは、まるで古文書や絵図を読み解く感じです。

海外のセミナーに参加するなど英語も堪能な方のようで、海外書籍の部分を引用して、そのコメントから話が始まるケースがいくつかあるのですが、著者の意にあった原書部分をつまみ食いしている感じがあります。相補組織の説明では、「原書;The Structure of Weavingの組織論は抽象的な説明でわかりにくい」と書いています。論理的、合理的でなければ認められない米国のリポート(論文)が「抽象的」という記述には、戸惑いを感じます。後日、簡単に紹介してみたいです。

当然のことながら、個人的な感想ですが、この本に感じる読み難さは、短すぎる説明と資料の紹介が交錯していて、著者は何を言いたいのか、どのように読み取ればよいのか、はっきりしないところです。著者の推察や推測、専門家の仮説、裏付けのある歴史の技法など様々なタイプが混在しているようなのです。また、使われている織物用語は呼び名や名称が様々で、著者オリジナルの解釈や新語もあり、用語説明一覧がほしいと思いました。国内外の織や組織に詳しく、専門的知識も豊富な人でもかなり難解だろうと思います。

また、実際にやってみれば、自然なことだとして、『タテ糸のつなぎ間違いからもじり織の綜絖』、『綾織から繻子織に進んだ』『綜絖通し間違いの繰り返しと、踏み間違えからブロックデザインとオーバーショットやサマー&ウインターなどの織り方が生まれた』など、自分経験から得た数個のパズル片を組み合わせて、安易に説明してしまうような記述は先人たちは苦心もせず偶然に見つけたように聞こえて気になります。

40年ほど前、手織りを学んだときに「言葉や文章では通じない世界だから、文句や理屈を言ってないで、やってごらん。そうすればわかるから」という教えがありました。著者も、いまだにこの教えを信じて手を動かし、たくさんの推測を生み出したようです。生活環境、思考や発想もことなる古代の組織や技術を著者の思い付きと現代のやり方で再現して、歴史を説明する危うさを感じます。
織作家として、織布の復元の楽しみや、やり方を発表するだけでは満足できなかったのでしょうか。

最後に、著者は「布の組織と’もよう’の発達とが深く関わりあっている」としています。
では、もようや色数を増やしたことで組織が不安定になっている古い布が存在することをどのように説明するつもりでしょうか。

本の分厚さと引用の多さばかりが気になりました。

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